2018年4月より運用が開始されたオンライン診療に続き、2020年9月の薬機法改正では薬局での服薬指導もオンラインにて実施することが認められました。
しかし様々なことが急速に変化している薬局・薬剤師業界の今。限られた人員の中、新たにやるべきことが増え続ける中で、オンライン服薬指導のシステムやツールの導入を検討したいけど、あれこれ比較して決める余裕がない、そんな方も多いのではないでしょうか。
今回はオンライン服薬指導をはじめるにあたって、どのようにシステムやツールを選べばよいのか、具体的にお伝えしたいと思います。
目次
オンライン服薬指導の背景
オンライン服薬指導のツールやシステム。どう選べば良いのかを考えるにあたり、まずオンライン服薬指導の背景から見ていきましょう。
みなさんは「Society5.0」という言葉を聞いたことはありますか?Society5.0とは、経団連から出されている指針のひとつで、「AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術をあらゆる産業や社会に取り入れることにより実現する新たな未来社会の姿」です。
(経団連webサイトより一部抜粋)
その中で「オンライン」という言葉については、ヘルスケア部門の中で非常に注目されており、「健康管理・増進」「診療」「調剤・服薬指導」「手術」「介護」「治験」と、様々なシーンにおいてオンライン化が推奨され、また普及しています。
よく最先端医療の現場を取材した映像や写真などで、医療用ロボットを遠隔で操作しながら手術を行う様子などが見られますが、このように、医療の現場ではAIやロボットを用いてオンラインで広がる世界が増えてきています。
これは薬局業界においても同様で、薬局・薬剤師に直接関わりがある「健康管理・増進」「調剤・服薬指導」「治験」というシーンにおいても、オンライン化は推奨され今後ますます普及していくと考えられています。
政府から発表された2021年の骨太の方針では、初診においてもオンライン対応が可能になりましたが、先日閣議決定された骨太の方針2022では、医療介護分野で「DXの推進を図るため、オンライン診療の活用を促進する」と表明されました。
マイナンバーカードの保険証利用や電子処方箋など、扱う情報のデジタル化やオンライン化は今後ますます進んでいくことが確実ですが、オンライン服薬指導も含め、いわゆるヘルスケア部門でのオンライン化推進には、国が負担する医療費の削減なども狙いとしてあり、政府主導で医療DX推進本部が設置されるなど、力を入れて取り組み始めています。
薬局・薬剤師の役割
Society5.0の「調剤・服薬指導」「治験」「健康促進」においてオンライン化・デジタル化を進める中で、薬局・薬剤師は、それぞれの地域における情報のハブとして機能することが、役割のひとつだと言われています。
地域包括ケアシステムの中にもある通り、患者に一番近いところにいるのは、医師ではなく薬局と薬剤師です。
そして薬局・薬剤師だからこそ知ることができる患者のリアルタイムな情報を、薬剤師が中心となり例えば介護であれば訪問診療医の先生、ケアマネージャー、介護士、また施設であれば施設関係者の方々、処方元の医師など、患者様の周辺にいる関係者に共有し連携することで、健康増進も含め役割を果たすことができるのです。逆に言うと、そういった役割を果たせない薬局・薬剤師は今後は勝ち残れないとも言われています。
薬局淘汰の時代と言われている今、全国6万店にのぼる薬局すべてが必要とされる時代は、厳しいですが終わりを迎えました。その中でどのように生き残るかを考えたときに、現状と同じままではダメだという意識をしっかりと持ち、重要なキーワードである「情報の収集・活用」と「オンラインの推進」を行っていくことが大切です。
情報とは、前述した通り薬局・薬剤師が一番近くで知ることができる患者様のリアルな情報です。そしてもうひとつがオンラインの推進。骨太の方針2021・2022でも推進されていますが、現状はまだオンライン化の普及途中です。今後さらなる普及・発展が進むであろうことは頭に入れ、今後の薬局の生き残りを懸けて柔軟に対応できるようにしていかなければなりません。
オンライン服薬指導全面解禁で起きた変化
ではオンライン服薬指導の全面解禁により、従来と比べて何か変化したのかをおさらいしたいと思います。
オンライン服薬指導にかかる薬機法に基づくルール改正(省令・通知)は、0410事務連絡の実績や規制改革実施計画等を踏まえ現在も検討中で、オンライン診療の議論も鑑みながら、年度内の公布・施行を目指しています。
通信方法の部分においては「映像および音声による対応」がルール化され、音声のみでの実施は不可となりました。また、オンライン服薬指導の対応そのものも「かかりつけ薬剤師・薬局により行われることが好ましい」とされ、「服薬指導計画と題する書面の作成は求めず、最低限の情報を明らかにする」など、実施方法がルール化されています。
さらに、評価に関しても変更がありました。細かい施設基準が令和4年の調剤報酬改定では削除され点数もアップしました。いわゆる全面撤廃の中で施設基準もなくなり、点数も上がってきたという形になります。
在宅についても、オンラインの薬剤管理指導料が2点ほど上がり、確実にオンライン服薬指導についての加算が増えてきています。
そんな中で着目したいのが地方厚生局のデータです。オンライン診療料の届出をした保健医療機関数をグラフ化したものがあるのですが、新型コロナ感染症の要因もあり2020年に急増し、それ以降も現在に至るまで右肩上がりで増え続けています。
さらにオンライン服薬指導に関しても、届出をした保険薬局件数は医療機関件数に比例するように増え続けていました。
この事から何がわかるか言うと、オンライン診療とオンライン服薬指導はセットだということです。
オンライン服薬指導のマーケット
では次にオンライン服薬指導のマーケットについて考えていきましょう。
よく言われるのが大学病院での話で、体調は安定しているけど慢性疾患を抱えていて定期的に診察を受けている患者様です。待ち時間2時間に診察はたったの5分。これは多くの患者様がなんとかならないかと思いながら、どうしようもなく耐えている状況です。
同じく解禁されたリフィル処方箋制度にも通ずる話ではありますが、このように体調が安定している慢性疾患の患者さんなどには、オンライン診療やオンライン服薬指導の需要があると考えられています。
では急性疾患の場合はどうでしょうか。4月以前の0410通達にのっとり電話でオンライン診療を受けた患者様がその後どういう動きをされたかと言うと、お薬に関してはすぐに手元に欲しいので、結局のところ薬局には足を運んでいたのです。
特に急性疾患の患者様は、一分一秒でも早く熱を下げたいですし、痛みがあればその痛みを取りたいですよね。そうなると、のんびりと薬の到着を待っているわけにはいきません。
つまりオンライン服薬指導のマーケット、対象になる患者さんというのは、薬の受け取りに急を要さない慢性疾患の方か、もしくは多忙のため薬局に行く時間が取れない方。こういった方々がメインターゲットになるのです。
医療現場での現状
しかしながら医療現場での現実を見てみると板橋区医師会が調査したデータでは、オンライン診療を実施していない施設が106にも上ることが分かりました。
理由としてあがったのは、「十分な診察や正確な判断ができない」という答えが7割以上で最も多い回答でした。他には、多忙で余裕がないという内容や、システム会社への懸念、制度が複雑などあるのですが、7割以上の医師は十分な診察や正確な判断がオンライン診療ではできないので、あまりやりたくないというのが本音なのです。
さらに「オンライン診療についてどう思っているか」という質問では、最も多かった答えが「診察のオンライン化は慎重であるべき」という内容でした。
離島など医療体制が十分に整っていない場合や、またコロナ禍における感染症対策を講じての場合は、オンライン診療の実施が有効であるとの意見も続いて挙がっています。
つまり医師の立場から考えたときには、基本としては対面で診察をしないと正確な判断が下せないという考えがベースにあり、オンライン診療をするのは緊急措置ややむを得ない場合だという流れが現在も風潮として存在しているのです。
また「日本医師会は”オンライン診療は、解決困難な要因によって、医療機関へのアクセスが制限されている場合に、対面診療を補完するもの”と考えています。この考えに賛同しますか。」との質問に対して、賛同すると答えた開業医・勤務医の先生は50%を下回る結果となりました。賛同しないと答えられた方も20%ほどいます。
また別のデータで、「オンライン診療のみで診察が完結することについてどう考えますか。」という医師への調査では、「対面診療との組み合わせを原則とするべき」との答えが開業医の先生は60%、勤務医の先生は40%にのぼります。「問題がない」と答えた割合は開業医・勤務医の先生ともに10%台と、非常に少ない割合でした。
つまり今、オンライン診療、オンライン服薬指導を比較したときに、薬局の世界においてはオンライン服薬指導は全面解禁になり、点数も上がり、急速にクローズアップされ皆さんの関心も高いですが、一方で医療現場。オンライン診療は、医師からすると積極的に行いたいわけではないということが見えてきました。
私たち薬局・薬剤師はこの状況を冷静に捉える必要があります。これが今の、オンライン診療・オンライン服薬指導の立ち位置なのです。
もちろん今後、国の施策として医師に対しオンライン診療を推進する方向に舵が切られれば、状況も大きく変わる可能性がありますが、少なくとも今はそうではないということです。
オンライン服薬指導システム・ツールの選び方
この現状から考えたときに忘れてはならないのが、前述した通りオンライン診療とオンライン服薬指導はセットであるということです。
ということは、薬局でどういったシステムやツールを入れるかを決める前に、まずは薬局周辺の医師が何を使ってオンライン診療をしているかを調べることから始めなければなりません。
ひとつだけのシステムを使っている先生もいらっしゃるでしょうし、有名どころと言われるものは一通りすべて導入しているという先生もいらっしゃるでしょう。あなたの調剤薬局が実際の医師に聞いたところでは、一番使っているのはLINEだという回答が最多でした。
すでに世の中にはいろいろなシステムが開発されていて、オンライン診療とオンライン服薬指導が同じシステム内でそのまま受けられるというものもあれば、LINEという無料かつ患者様にも馴染みのあるツールなど、選択肢は多種多様です。
つまりどのツール、どのシステムが人気で、これを入れておけばバッチリという話ではなく、まずは近隣の医療機関がどういったものを使ってオンライン診療をしているかをリサーチし、それに合わせたものを薬局でも導入すべきだとあなたの調剤薬局では考えています。
仮に医療機関に合わせた結果、導入に多少の費用がかかったとしても、医師に対して「薬局でも同じものを入れたのでいつでも対応が可能です」というアピールができれば、それだけでもお医者様との関係性が発展します。
様々なシステムがある中で、薬局主導で機能やコストを比較し、どれを選ぼうかと考えるのではなく、決め手になるのは近隣のお医者様がどのシステム・ツールを使っているか、これだけなのです。
オンライン服薬指導に使えるシステムは、有料のものから無料のものまで幅広くあります。
それぞれに特徴があり選ぶのは簡単ではありません。しかしひとつ言えるのは、費用がかかったとしても、周辺の先生が使っているのであれば薬局でも導入する価値が十分にあるという事です。
但し、前述した通り医師の多くはオンライン診療に乗り気ではありません。システムの導入はしても、運用されていない可能性もあるでしょう。しかし薬局・薬剤師として大切なことは、同じシステムを導入し、いつでもオンライン服薬指導ができる体制を整えておくことです。
システムを導入してどう運用するか、導入に対する費用対効果をどう出していくかを考えるのではなく、これは広告宣伝費だと考え投資として割り切り、医師との関係構築から、処方箋をより多くもらったり、在宅を紹介してもらったり、派生して生まれてくるメリットの方を優先して考えるべきだとお伝えしたいです。
もちろん同じシステムを導入したとして、たったこれだけで医師との強固な関係性が作れるわけではありません。しかし同じシステムを入れ、オンライン診療を受けた患者様に、服薬指導や投薬後のフォローもしっかり行い、何かあれば服薬情報提供をするということが、サイクルとしてしっかり回れば、他の薬局との差別化も図れ、信頼は揺るがないものになるはずです。
まとめ
ここまで、オンライン服薬指導システム・ツールの選び方についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
あなたの調剤薬局では、薬局・薬剤師先生向けのオンラインセミナーを毎週開催していますが、「オンライン服薬指導はどのシステムがオススメですか」との質問をよく頂きます。
ここまで読んでいただいた方はもうお分かりですよね。
どのシステムがオススメかではなく、周辺のお医者様が何を導入しているか。これが最も重要であり、そこに答えがあるのです。
それでもどうしても具体的に知りたいということであれば、まずは無料のものを全部入れてみるのも良いと思います。
現状はまだオンラインの運用が積極的には行われていないので、まずは無料のものから幅広く導入し、いざというときに備えておくのも一つの判断かと思います。
オンライン服薬指導の基準は「ビデオ通話ができること」です。LINEやSkype、Zoomなど無料かつ簡単な操作で使える優秀なものが多くありますので、ぜひ参考にしてみてください。
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